初めに
株は安く買って高く売りたい…まあ、株に限らず、商売の基本ではあります。だから、現在より上がる株を買えば確実に儲かります。が、それができれば誰も苦労しませんよね。
そこで、どうすれば今より上がる株を見極めることができるのか、その株が高いのか、安いのか、を判断するための指標や戦略をまとめてみました。
株価収益率(PER)
PERとは
まずは、株投資家ならだれもが周知しているPERの登場です。これは、会社の収益力から見て、今の株価が割安かを図る、ファンダメンタル分析の1手法で、
株価÷1株当たり利益(EPS)
で算出します。つまり、今の株価が、あと何年分の利益で回収できるか、を見る指標です。
この点、日経平均のPERは20.18倍(2020.8.7現在)となっていますので、これは20年ちょっとの利益で株価を回収できるということになります。
PERの使い方
そして、PERの使い方としては、ある会社のPERを同業種の別会社のそれと比較し、割安か割高かを判断するのが一般的です。
(例)
A社 株価1000円 EPS50円→PERは20倍(1000÷50)
B社 株価1200円 EPS80円→PERは15倍(1200÷80)
上記の例では、B社がA社より割安となります。とはいえ、B社のPERが安いのには業績不振等のネガティブな材料があってのことかもしれないので、過去の業績を見て、業績が伸びているか、少なくとも安定しているか、をチェックする必要があります。
また、PERの検討に際しては、現在の利益や株価を基にしたPER(実績PER)ではなく、業績予想を基に算出したPER(予想PER)によるのが一般的です。会社四季報には、実績PERと予想PERがともに掲載されています。
PERのデメリット
①会社同士の相対評価でしかない点
先の例でいえば、B社がA社よりPERが低い=割安なことはわかりますが、B社の株価が、B社の本質的な企業価値に照らして安いのかどうかはPERは示してくれません。
②分母が純利益のため、その多寡により数字がぶれやすい。
PERの分母は会社のEPSですが、これは会社のその時々の業績により大きく変わるので、PERの値がその都度、大きく変わってしまうことになります。
例えば、2020年夏号の会社四季報によれば、消費者金融のアイフル(8515)の実績PERと予想PERは、
過去3年間の実績PERの高値平均:119.1倍
2021年3月期の予想PER:15.3倍
と8倍近くも差があります。これは、四季報が、同社の2021年度の大幅な増益を予想しているためです。同じ会社であるにもかかわらず、短期でこれほどぶれてしまうのは指標としてどうか、ということです。
③高成長企業では使いにくい
このような会社は、期待値が高く、高PERのことが多くなっています。例えば、2020年夏号の会社四季報では、オンライン診療を手掛けるメドレー(4480)の予想PERは250倍です。
さらに、高成長企業の場合、成長優先の結果、利益がマイナス、すなわち赤字であることが多いため、分母のEPSがマイナスとなってしまい、PERが算出できないことがあります。先のメドレーの場合、2019年12月期は4億円近い赤字であったため、四季報でも実績PERは算出されていません。
株価純資産倍率(PBR)
PBRとは
上記のようなPERのデメリットを回避することができる指標として、PBRがあります。これは、会社の資産から見て株価が割安かどうかを見る、ファンダメンタル分析の1手法で、
株価÷1株当たり純資産
で算出します。純資産が存在しない会社は考えられないため、赤字会社であってもこれが算出できないということはありません。
そして、まともな会社なら1倍以下はありえないので(1倍以下というのは、会社を清算した価値以下の株価であるから)、そうなっていればバーゲン価格かもしれませんね。
ただ、日本の上場企業のPBRは、日経平均では1.06倍(2020.8.7現在)となっています。なんと、ほとんど1倍ですね。これは、主に、日本の上場企業の収益性(ROE)が低いためと考えられますが、記事の主題から外れるので詳細は省きます。
PBRの使い方
PBRは、より低い方が割安の可能性が高いのは事実ですが、PERと同様、その会社にネガティブな要因があるために低くなっているだけかもしれません。
この点につき、YouTubeのZeppyチャンネル(2020.8.7)において、 アナリストの宮島秀直氏は、自己資本比率などの財務健全性と、EPSの成長率がTOPIXを上回っていること、内部留保(利益剰余金)による自社株買いがどれだけ可能か、も併せてチェックすべきポイントに挙げられています。参考になりますね。
PBRのデメリット
①業態によってPBRが大きく異なる
例えば、工場等を持つ製造業と、それがないサービス業などでは、前者はPBRが低くなりがちで、後者はその数倍のPBRとなる、といったこともあり、単純に比較はできません。その点、上記の動画では、その会社の過去のPBRと比較し、その間の業態の変化なども踏まえて高いか安いかを検討する手法が述べられています。
②簿価と時価との乖離がありうる
会社の資産は帳簿価額(簿価)で計算されるので、簿価よりも時価が著しく低い場合には、PBRが、本来あるべき価格よりも低くなってしまう、とも言われます。
③成長力はPBRでは読み取れない。
PBRは会社の利益を考慮しないため、利益成長力などは読み取れません。そこで、PERや他の指標で補完する必要があります。
株価売上高倍率(PSR)
PSRとは
PERが赤字の高成長銘柄に適用できないという難点を克服するための指標で、
時価総額÷年間売上高(=株価÷1株当たり売上高)
で算出します。PERの利益の代わりに売り上げを分母に持ってきたのがミソで、利益と異なり、売り上げのない会社は僅少(というか、そのような会社はそもそも検討するに値しない)なので、赤字企業に使用できないというPERの難点を回避することができます。
PSRの使い方
使用方法はPERと同じく、複数の会社の相対評価の指標として使います。例えば、売り上げが同等の2者間で比較するなどといった使い方をするのが一般的です。主に利益が出ていない振興成長企業などに使用される指標です。
PSRのデメリット
この指標は、PERの代替の指標なので、会社同士の相対評価でしかないという難点がそのままPSRにも当てはまります。
また、この指標の適用対象は、主として利益の出ていない会社ですが、そのような会社へ投資してよいかどうかは慎重に検討すべきでしょう。何しろソフトバンクグループですら、WeWorkへの投資で失敗していますから・・・
相対力指数(RSI)
RSIとは
PER,PBR,PSRは、いずれも会社のファンダメンタルに関する指標ですが、これに対し、相対力指数(RSI)はテクニカル手法の一つで、その銘柄が買われすぎ(高い)か、売られすぎ(安い)かを判断するための指標です。
一定期間の上げ幅の合計÷(一定期間の上げ幅の合計+同期間の下げ幅の合計)=0~100
で算出し、70~80%以上で買われすぎ、20~30%で売られすぎ、と判断されます。
例えば、以下はオープンハウス(3288)の2020年5月~8月初めのチャートですが、チャート下の折れ線がRSIです。
5月25日から7月初めころまでは、RSIは70%を超え、買われすぎといえる状態でしたが、7月11日に増資のIRが出たのをきっかけに下げに転じ、7月20日以降は30%の売られすぎのライン近くまで低下していました。
その後、8月に入る直前に株価が上昇に転じていることからすると、RSIが30%近くまで低下した時点が買いのチャンスだった・・・かもしれません。
RSIのデメリット
RSIは売り買いのタイミングを計る基準としてはよいですが、チャ-ト分析の手法の常として、予測通りにいかないこともしばしばあります。従って、ローソク足や、ファンダメンタル分析と併用することが必要でしょう。
奥山月仁氏の分析手法
兼業投資家として有名奥山月仁氏は、主にグロース株投資の手法で財を築かれましたが、その著書「エナフン流株式投資術」で、株が会社の実力に比べて割安になるパターンに言及されていますので、ご紹介します。
会社の業績拡大に株価が追い付かない場合
市場での知名度が低いなどの理由で、業績の拡大にもかかわらず株価が上昇しないケースで、例として、コムチュア(3844)で大きな利益を上げたケースを上げています。ちなみに、この会社は、私も利益を上げた思い入れのある銘柄です。
業績と関係ない理由による株価急落で割安になる場合
アメリカ大統領選で、トランプ氏が勝利した当日に日経平均が急落した後、翌日には急上昇したケースが挙げられています。今年3月のコロナ禍による日経平均暴落もこのケースといえますね。
業績が上昇しているにもかかわらず株価が下落する場合
こんなことがあるのかと思いきや、相場全体が低迷している場合には生じることがあるようで、改革が順調に進捗していたソニー(6758)の2015年の株価下落を引き合いにされています。
業績が株価の上昇を超えて拡大する場合
会社の業績拡大があまりに急激な場合に、株価がそれを織り込み切れず、このようなことが起こるとのことです。例として、ヤーマン(6630)の2016年の自社製品大ヒットに伴う急激な業績拡大が挙げられています。同社の家庭用ムダ毛処理機が大ヒットしたとのことですが、残念ながら、私は全く知りませんでした・・・
最後に
以上、ファンダメンタルやテクニカル、著名個人投資家の手法などをとりとめなく紹介しました。
私自身は、成長株投資の方針であったこともあり、正直、株価の割安さ、については無頓着なところがありました。結局は株価が買値より上がればいいんでしょ、みたいな・・・
特に、PBRは、バリュー株投資の指標じゃないの?との思いが強く、ほぼ無視していました。しかし、宮島氏のPBRを中心とするチェックポイントは示唆に富むもので、目からうろこでした。
また、奥山氏の著作についても読了しておりますが、同氏はグロース株投資家であるにもかかわらず、株の割安さにも着目して、買うべきタイミングを常に狙っており、思い付きの取引が多い自分の投資姿勢について大いに反省した次第です。
本記事が、皆様の株取引の成果に少しでも貢献できればうれしく思います。