雑記帳

風説の流布って?SNSでの銘柄紹介はアウト?SNSと金商法について

悪いごんすけ
悪いごんすけ
この株買えば、空売りの踏み上げ相場で儲かりまっせ。

最近、ユーチューブなどの各種SNSで、インフルエンサーによる銘柄紹介等を目にする機会が増えましたが、それに伴い、人気の高いインフルエンサーの扱った銘柄の株価が急騰するなどのケースが出てくるようになり、それに対する批判的な意見も聞かれるようになりました。
ここでは、SNSでの銘柄紹介が金商法に違反し、お縄になるようなことがありうるのか、あるとすればどのようなケースかについて、判例等を引用しつつ、考えてみたいと思います。

金商法とは

正確には金融商品取引法といい、旧有価証券取引法等を取り込む形で平成19年9月30日に施行された法律です。

その目的は、「国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資すること」(第1条)です。が、そうはいっても、投資は自己責任の部分もあるのなので、金商法は、金融商品そのものを選別するのではなく、事実を知らされないことや、不公正な取引によって投資者が被る損害から投資家を保護しようとしています。

余談ですが、つみたてNISAは、対象となる金融商品そのものをお上が選別しており、この点、金商法よりさらに踏み込んだ投資家保護を目指した制度となっています。

風説の流布、偽計、暴行・脅迫の禁止(金商法第158条)

SNSによる投資情報の提供が金商法違反となりうるのは、同法の第158条の関係によるものでしょう。同法の全文は以下の通りです。

(風説の流布、偽計、暴行又は脅迫の禁止)
第158条 何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、又は有価証券等(有価証券若しくはオプション又はデリバティブ取引に係る金融商品(有価証券を除く。)若しくは金融指標をいう。第168条第1項、第173条第1項及び第197条第2項第1号において同じ。)の相場の変動を図る目的をもつて、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。

そして、同条の違反には、10年以下の懲役若しくは1000万円以下(所定の場合には3000万円以下)の罰金という重い刑罰が科せられています(金商法第197条)。いやー怖いですねー。

なお、同条は、相場変動等の目的をもって、①風説の流布、②偽計を用いる、③暴行または脅迫を行う、の3つの行為を禁止していますが、本記事ではSNSでの銘柄紹介が風説の流布に該当しうるか(上記①)が検討対象なので、上記②、③は検討しません(ちなみに②の「偽計」とは、簡単に言うと、だますための手段、ということです)。

風説の流布

意義

以下、金商法第158条の「風説の流布」について考えていきます。

風説の流布とは、噂を流すことで、虚偽でなくともよいが、行為者が合理的根拠のないことを認識していることが必要とされています。

なお、刑法第233条(信用毀損及び業務妨害)では、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者が処罰されますが、金商法はそれと異なり、「虚偽」が要件とされていません。

従って、例えば、銘柄分析をして、ある銘柄が上がりそうだ、とSNSに流しただけで、「風説の流布」としてお縄になるのでは…との疑問も出てきますね。しかし、それでは、恐ろしくてSNSで株取引情報を流すこと自体ができなくなるし、また投資顧問業の方の業務もことごとく違法になりかねません。

裁判例、その他実務の運用事例

では、実際には、どのような行為が、風説の流布として取り締まりの対象とされているのでしょうか。裁判例等の実務の運用を事例ごとに見ていきます。

事例1:ライブドア事件

この事件自体は、説明の必要もないほど著名ですが、事実関係は極めて複雑なので、金商法第158条の「風説の流布」に関連する部分のみ検討します。

(事実関係)

ライブドアによる企業買収が発端となった事件です。事実関係は以下の通りです(簡略化しています)。

①同社の子会社A社が、A社の出資する投資事業組合を通じて、N社の買収をするにあたり、ライブドア株とN社株の株式交換によることとした。

②N社に交付したライブドア株を投資事業組合が市場で売却し、買収代金をN社に支払った残金37億円余りをライブドアに還流し、ライブドアの連結売上高に計上した。

③その際、上記②のライブドアの利益を最大化するため、N社の企業価値を過大に評価した上、ライブドア株を株式分割(100分割)して、ライブドア株とN社株の交換比率を100:1とし、ライブドア株の株価を上昇させるため、架空の売上、利益を計上した虚偽の業績を、TDnet(東証の適時開示情報伝達システム)で公表した。

(結果)

懲役2年6月の実刑判決(東京地裁2007年3月16日判決)。

(風説の流布について)

上記③につき、裁判所は、有価証券の相場の変動を図る目的で、偽計を用いるとともに、風説を流布したものと判示しました。架空の売り上げ等(いわゆる粉飾決算)のTDnetでの公表を「風説の流布」と認定したものです。

(補足)

ライブドアが、N社の買収に当たり、株式交換という手段をとり、さらに投資事業組合がN社に交付すべきライブドア株を市場で売却するという複雑なスキームをとったのは、N社の買収が合意された2003年当時、ライブドアは一新興企業に過ぎず、買収資金の調達が困難であったため、株式交換による買収を提案したが、N社側が現金による買収を望んだため、現金をねん出するために、N社に交付すべきライブドア株を売却し、その売却益からN社に買収代金が支払われた、ということのようです。

事例2:新日本理化㈱、明和産業㈱に関する風説の流布

(事実関係)

「般若の会」の代表者が、ウェブサイト「時々の鐘の音」にて、新日本理化㈱、明和産業㈱につき膨大な空売り残高があり、「空売りの踏み上げ相場」(空売り残高の増加、および浮動株の減少に伴い、株券の調達が困難になった売り方が高値で買い戻すことにより上昇すること)により株価が大きく上昇する可能性があるとの虚偽の情報をを示し、同代表者はその気がないにもかかわらず、これらの株券を保有を継続する意思を示し、他の投資家に対して、自分と同様に保有を継続することを推奨した、という事案で、実際に株価は大きく上昇したとのことです。

(結果)

証券取引等監視委員会の告発により代表者とその息子が起訴されるも、代表者は判決を待たずに死亡したため公訴棄却。なお、息子に対しては、懲役2年6ヶ月(執行猶予4年)、罰金1000万円、追徴金約26億6000万円の有罪判決。

(風説の流布について)

有価証券売買のため、および有価証券の相場の変動を図る目的をもって、空売りの踏み上げ相場が形成されて株価が大きく上昇する状況にはないにもかかわらず、そのような状況にあるとの虚偽の情報を、ウェブサイトで掲載したことが、証券取引等監視委員会により、風説を流布するとともに偽計を用いたもの、と認定され、告発に至りました。

(補足)

本件被告人の加藤暠氏は、いわゆる仕手筋として有名な人物で、「兜町の風雲児」なる異名もあったようです。

事例3:ジャパンメディアネットワーク事件

(事実関係)

㈱ジャパンメディアネットワーク(以下J社)の実質的な代表者が、その親会社である㈱W工業(以下W工業)の株価の上昇・維持を図る目的で、実現可能性がないにもかかわらず、携帯電話の充電口にアダプターを差し込むだけでインターネット回線と接続し、携帯電話の通話料金を月額4500円程度に定額・固定化するサービスを開始する旨のニュースリリースをしたとのことです。

(結果)

懲役2年6月(実刑)、追徴金15億6110万1835円の判決(東京地裁2008年9月17日判決)。

(風説の流布について)

争点は、J社のニュースリリースをしたサービスが実現不可能であることにつき、同社の実質的な代表者が認識していたか、でしたが、裁判所は、ニュースリリースの内容に合理的な根拠がないことは認識していたものとして、有価証券売買のため、および有価証券の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布したものと認定しました。

(補足)

本件判決の15億円余りの追徴金は、W工業株の売却による売買差益相当分に対するものです。

事例4:エイズワクチン風説流布事件

(事実関係)

コンピューターソフトウェア関連会社であるテーエスデー㈱(以下「テ社」)の代表者が、償還期限が迫っている転換社債(社債権者の請求により株式に転換することのできる社債)について、株式への転換を促すために、テ社の株価の高騰を狙い、マスコミに対し、テ社は開発中のエイズワクチンの特許実施権を所有し、タイの大学・同国赤十字で臨床試験中である、とか、同社はロシアの国立医科大学とエイズワクチンの臨床試験及び共同研究を行うことを正式に調印した、などの虚偽の事実を公表したとされたものです。

(結果)

懲役1年4ヶ月(執行猶予3年)(東京地裁1996年3月22日判決)

(風説の流布について)

本件において、テ社の代表者がエイズワクチン開発事業の準備を進めていたことは確かなようですが、タイでの臨床試験や、ロシアでの共同研究等の調印などは全くの虚偽であり、同人はそれらを認識していながら、テ社の株価の高騰のために風説を流布したものと認定されたものです。

事例5:東天紅事件

(事実関係)

行為者4名が、東天紅株の相場の変動を図る目的で、その意思がないにもかかわらず、公開買付けをする旨等を記載した内容虚偽の文書を報道機関に宛ててファクシミリで送信して発表し、風説を流布したとされたものです。このほか、行為者2名につき、同株券の大量保有者になった旨の虚偽の記載をした大量保有報告書を提出したことなども罪に問われました。

(結果)

懲役2年(執行猶予4年)、罰金600万円(東京地裁2002年11月8日判決)

(風説の流布について)

公開買付けをする旨等を記載した内容虚偽の文書を報道機関に宛ててファクシミリで送信して発表した行為が、風説を流布したものとされました。

各事例における風説の流布の認定

風説の流布について、必ずしも虚偽でなくともよい、と既にお話ししましたが、上記で検討した各事例を見ると、すべてが虚偽の事実を含んだものとなっています。これは、捜査機関が、虚偽を含んだ悪質性の高いものを中心に摘発している結果かもしれません。実際、事例1では、風説の流布のみならず、偽計があったものと認定されています。

だからといって、結果的に虚偽でなければよいというわけではなく、先に説明したとおり、合理的根拠がなく、行為者がそれを認識していれば風説の流布に当たります。

SNSでの特定銘柄情報の発信ーごんすけの考え

では、SNSでの特定銘柄の推奨などが「風説の流布」とされることがあるのでしょうか。

既にみてきたように、特定の銘柄推奨の根拠等が、虚偽であったり、合理的な根拠がないような場合には、風説の流布として金商法違反に問われる可能性があります。

逆に言えば、当該会社の発表した財務諸表の分析や、株価チャートの分析など、客観的・合理的な資料に基づいた情報の発信であれば、風説の流布とされることはないと思われます。

SNSでの銘柄紹介については、いろいろ批判されることも多いですが、合理的な根拠に基づく情報発信は法律は許容していると考えられ、そのような情報発信が株価に影響があったとしても、それは投資家の判断に基づく結果に過ぎず、自己責任の範疇に属するものと言えると思います。

株式情報は、もともと、機関投資家と個人投資家の情報量の差が著しい分野で、言葉は悪いですが、個人投資家が機関投資家の養分にされるようなことは少なくない、というか、それが普通の世界だったといえます。ところが、SNSの登場、発展により、個人投資家の情報収集、発信能力が飛躍的に高まり、機関投資家との格差が小さくなってきたように思います。私としては、個人投資家が良質な情報を発信することにより、多くの個人投資家の投資スキルが一層高まることを期待しており、本ブログがその一助となれば幸いです。

参考文献

近藤光男ほか著 「基礎から学べる 金融商品取引法 第4版」

難解な金商法の内容をコンパクトに解説した本。同法は改正が頻繁にされていますがそれに応じて本書も改訂されており、最新の第4版は2020年6月1日発行と、内容も最新のものとなっています。

 

細野祐二 著 「粉飾決算VS会計基準」

事例1のライブドア事件については、大いに本書を参考にしました。著者は元公認会計士で、有価証券虚偽記載罪で有罪判決を受けたという経歴の方で、それだけに会社の決算や刑事司法に詳しく、複雑なライブドア事件の概要を知るのに大いに役に立ちました。ただ、著者の経歴の故か、検察や裁判所に批判的な記載が多くなっています。

なお、本書はライブドア事件以外にも、長銀、日債銀、オリンパス、東芝の、かつて大きく報道された粉飾決算の事例を取り上げています。

そのほか、各種判例データベースや判例評釈、証券取引等監視委員会「証券取引等監視委員会の活動状況」(平成28年6月)、も参考にしました。

 

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